迷路の中へ

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「了解!ダンナ!」 ……何だか、ノリのいい運ちゃんに当たっちゃったな。 この手の人種は『あの車をつけてくれ』なんて言ったら、張り切っちゃうタイプだろうな。 「最短距離突っ切りますぜ!ダンナ!」 ダンナはいいから、ちゃんと前を見てくれ。 バックミラー越しに話し掛けてくれ。振り返らずに。 張り切り運ちゃんの言葉は本当で、かなり早く着いた。 「釣りはいらん」 ………しまった! 万札出してしまった……。 今更『やっぱりお釣り下さい』なんて言えるわけもなく、満面の笑みの張り切り運ちゃんに礼をする。 桜の部屋の前。 勢いよくチャイムを鳴らして気付く。 俺……何しに来たんだ? 桜がどこから見ていたのか。何故、あそこにいたのか。 何故……泣いたのか。 何故、シリアスなシーンで……ネタを披露したのか。 聞きたい事は山ほどある。 だけど。それを聞ける立場に、俺はいるのだろうか。 桜に気持ちを伝えたわけでもないし。桜の涙……たまたま目にゴミが入ったとか、コンタクトがズレたとか。そんな類かもしれない。 俺……すごい空回ってたりして。そう思ったら、今すぐこの場を逃げ出したくなった。
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