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会社が終わる頃には、今朝の撫子の事も忘れていた。
部下にスロットで勝った話をして、それがなぜか白熱した。
俺はいついつ、これだけ勝った。俺は最高これだけ勝った。
勝った話しかしないのは、ギャンブラーの悲しい性だ。
ホームに向かい、電車を待つ。
朝のせわしなさと違い、ゆっくりとした時間が流れている。
電車に揺られながら、家に帰るのがダルいなどと考えた。
会社が許してくれるなら、あそこに寝泊まりしていた方が、よっぽど心休まるのだから。
目的の駅に降り立つ。
深く溜め息をつく。
気合いを入れなおし、歩き出す。気合いを入れなければ、家に帰れないのか。俺は。
「あの……」
まったく女ってヤツは、結婚してしまうと、なんであんなに魅力がなくなるのか。
「すいません……」
家に帰りたくなるような家を作る。それが主婦じゃないのか?
「あの!」
いきなり腕を掴まれ、我に返る。
「君は……」
撫子じゃないか。
「ちょうど見掛けたから、後つけちゃいました。ちゃんとお礼も言いたかったし」
偶然の再会らしい。
ベタな展開だ。
そう思う自分と、懐かしい気持ちの自分。ベタでも、自分の身に起こると、運命に感じるんだな。
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