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洋子ちゃんの目から、涙が一粒溢れた。ポタっと切ない音がした。
自分の目の前で、女性が泣いて。溢れる涙は、ウォータープルーフのマスカラを流した……。
「見ちゃったんですよ。二人がホテルに入るとこ」
八嶋のバカ野郎。
洋子ちゃんは、おしぼりで涙を拭きながら。その表情は『無』だった。
俺はおしぼりが黒くなるのを見つめ、いたたまれなくる。
おしぼりが可哀想……とかじゃないからな?
「許せない……?」
俺は、ヤボな事を聞いているかな。
洋子ちゃんはゆっくり首を振った。
横に。
「高志が……あの女を好きじゃないなら……見て見ぬフリができます」
その時初めて、辛そうな顔をした。
「私、女だからわかるんです」
佐藤は、人のモノを欲しがる女。
洋子ちゃんは、佐藤の裏を知りたいようだった。
「桜井さんは、その桜って人を大事にして下さい」
俺は『まだどうなるか、わからない』と言ったが、洋子ちゃんは強く言う。
「桜井さんは、その人の事……若いからとか、かわいいから好き……ってわけじゃないですよね」
参ったな。これまた自分の娘ぐらいの歳に、こんな事を言われるとは。
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