迷路の中へ

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洋子ちゃんが俺の前で泣いた日から、丁度一週間が経っていた。 八嶋は相変わらずだ。 本当に、佐藤と浮気をしたんだろうか。 《最近、忙しいですか?》 桜から不意にメールが入った。 時刻を見ると、いつもの電車の時間だった。 〈今日は、一本遅くなりそうだよ〉 今日はじゃない。今日も。 自分に突っ込みつつ、桜に送信した。 付き合ってる訳ではないけど、心は通じている。 それが、俺と桜だと思う。 「お疲れ様。お先に」 そろそろ出ないと、電車に遅れてしまう。 あんなメールが入ったあとは、桜が待っているような気になるのだ。 会社を出て、駅に向かう。 「桜井さぁん」 …………出た! 何故か物陰から、ひょっこり顔を出す佐藤。 「どうした?」 俺の頭には、記憶に無い『愛してるよ』の言葉が浮かんでいる。 ちょっと気まずい空気なのに、どもらなくなったな。俺。 少しは成長したか? 「どうした……ってぇ。冷たくないですぅ?」 下心アリの上目使いは、下心のない人間を不快にさせるんだよ。 「いつも通りだが」 佐藤の脇を通り抜けるべく、颯爽と歩みを早めた。
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