迷路の中へ

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一本を、あっと言う間に飲んでしまった。 俺は相変わらず、カバンを抱き締めてる。缶ビールのおまけ付きで。 「ふぅ……」 プシュッ! 桜は飲み終えた缶をテーブルの隅に置き、新たなビールを開けた。 「少し、ゆっくり飲もう?」 自分の置かれた状況。目の前の桜。 イマイチ、はっきりと理解しきれない俺の頭。ハゲちゃうかも。考えすぎて。 「……勇気が出ないから」 真っ赤な顔をして、両手に包み込んだビールを見つめた。 桜はテレビをつけ、ゆっくりと飲み続けた。ぽつぽつと、仕事の話をしながら。 たまに俺に、煮物をすすめたりして。 「自分で作ったの?」 煮物はとてもうまくて、田舎の味って感じがした。 もっとも……。俺は都会生まれの都会育ち。田舎も何もないけれど、安心する味だった。 「おじさんが、地元で居酒屋やってるんです。そこのメニューで出してるんですよ」 さっき、本当に泣いていたのかな。 「それを教えてもらったんです」 言い終わると、空になった缶をテーブルの隅にまた置いた。 もう4本目だ。 そんなに強くない桜は、目がうつろになっている。 4本目を開けようとしたその手を、俺は掴んでいた。 「………………」
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