革命宣言

5/9
前へ
/324ページ
次へ
「朝はいつもあの時間?」 会話が思い付かなくて、とりあえず言った。 そう言ってから、出勤時間を探ったりして、気持ち悪いオヤジ!とか思われないかドキドキした。 「はい。これからそうなる予定です」 少し首をかしげて、俺の目を覗き込む。 「よ、予定?」 女性とこうして話をするのは、年単位でなかったものだから、ついつい緊張してしまう。 「今月こっちに来たばかりで。会社は決まったんですが、住むところ決めてなくて……」 この駅の近くのマンスリーマンションに、とりあえず部屋を借りたらしい。 「すぐに来てくれって言われちゃって、ゆっくり部屋探しできなくて」 俺達は、ホームのベンチに座り、しばらく話し込んでいた。 きっと彼女は、見知らぬ土地で一人で心細いのだろう。 たまたま会った『都会にしては珍しく優しい人』の俺に、すり込み現象的なものが起きているんだ。 この都会で、唯一の知り合いになった俺。 「田舎と違って、仕事以外でも楽しめるだろ?」 俺は少し得意気になっていた。久しぶりの、仕事でもなくパチンコでもなく、幸子と交す意味のない会話でもなく。 ちゃんと生きた言葉が交されている、この会話が心地良すぎて。
/324ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2017人が本棚に入れています
本棚に追加