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『生きた会話』
そう感じた自分に、少々驚いた。
自分が喋りたい、聞きたい事を聞いているのが不思議だったから。
「友達いないんで、全然遊びに行ってないんです。一人じゃ怖いし」
そう言って笑う撫子に、俺があと10年……いや、20年若かったら『じゃあ、いろいろ案内してあげるよ』なんて言えるのに。
なんて思ってしまう。
「あの?」
俺はまた、違う世界に行ってしまってたみたいだ。
「あぁ、ごめんごめん」
「お名前聞いていいですか?」
その言葉に、少し驚いた。
こんな少し喋っただけなのに、名前を聞かれるほど興味を持たれたか?
いやいや。違うぞ。自惚れるな俺。
撫子は、都会で出会った『話せる人』に名前を聞いてるだけじゃないか。
「桜井だよ」
これもあと20年若かったら『隆一だよ』なんて、気取っていたんだが。
「えぇ!?そうなんですか?私の名前、桜って言うんです」
偶然ですね!
その笑顔は、本当に満開の桜のようだった。
「本当だね」
桜井と桜。ただそれだけの事なのに、こんな反応なんてな……。
俺は心が暖かくなるのを感じている。こんな風に『俺』と話をして、笑ってくれた人は久しくいなかったからな。
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