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「何か……あったの?」
電話の向こう。
幸子が少し、不安そうな声を出した。
「あ、いや……。その……」
俺さ、どうしてすぐに、言葉に詰まるんだろう。『何かあります』と言ってるみたいなもんだ。
「あぁ!もう!はっきり言いなさいよ!私これから夜勤だから、もう少ししたら出るのよ。だから早く!」
幸子には、嘘はつけない。
俺たちの娘だからってのもあるが。無駄に長年連れ添っていたわけではない。
俺がつく嘘は、幸子には大体見透かされるんだよ。
「手短に言うと、春菜の彼氏……結婚してるんだ」
しかも、無駄に爽やか。
そして……スーツメン。
「……あのコの歳じゃ、割り切れてないでしょうね」
このセリフが、あの幸子から出るとは思わなかった。
百戦錬磨的発言だろ。
「相手の、離婚するって言葉を信じてるみたいだ」
幸子はしばらくの沈黙の後、『ちょっと考える』と電話を切った。
はぁ………。
まったく。
世話の焼ける。
だけど、きっと……様子見だろうな。
春菜は言い出したら聞かない、自分の目で見たものしか信じない。
俺も幸子も、その性格は熟知しているから。
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