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「え……と。お茶ある?」
出しかけた手を引っ込め、笑顔のオーダー。
こんな状態で、なかなか先に進めない。何て清純派な……俺なんだろう。
この歳で。
「来週、誕生日ですね」
麦茶を注ぎながら、桜が笑顔で言う。
あぁ。また1つ歳を取る。
「そうだな。少し……憂鬱だな」
また、桜と1つ歳が離れてしまう。
いや。どんなに頑張ったって、歳の差が縮まるわけではないさ。
それでも願うんだよ。
どういうわけか。
「憂鬱?」
首を傾げる桜に、笑って答える。
「もう、歳は取りたくないよ。めでたく感じないもんな」
本音は言えず、誰もが言うであろうセリフを口にする。
「めでたい……です」
ニッコリと微笑み
「……桜井さんが生まれた日ですよ?生まれたから……だから今ここに居られて……私は桜井さんに、出会えたんだから……」
その後は、顔を真っ赤にしてうつ向いてしまった。
2人して。
言いたい事は、よくわかった。言葉が足りなくても。
「何か軽く食べます?」
ピンク色の空気を払拭するように、桜が顔を上げる。
「あ、あぁ。いただくよ」
こんな奥手な俺達は、手を繋いでテレビを見るのがやっとなんだよ。
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