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今夜は少し涼しいな。
駅の外に出て思う。
八嶋の誘いを考えながら、深い溜め息をついた。
決して、八嶋の誘いが嫌なわけではない。どうせ休みに家にいても、幸子に言われて、パチンコ屋に行く事になるのだから。
ふと前を見ると、綺麗な女性がこっちを見て笑っている。
俺に、あんな美人の知り合いはいないぞ。
その女性は目が合うと同時に、こちらに歩み寄って来る。
ん?
んん!?
「桜さんか」
俺は笑顔になった。
髪の毛を緩やかに巻き、メガネを外しただけ。本当にそれだけ。
見違える。
「今日、仕事が早く終わったんで……」
恥ずかしそうに笑う。
「美容室に行って、コンタクト取りに行って……」
両手を胸の前で合わせ、照れている仕草が新鮮だ。
「自分ですごく変わった!って思って……」
それで、あの……と、さらに恥ずかしそうにうつ向く。
「桜井さんに一番に見て欲しくて……」
不味いぞ。
頭の中は、小さい俺がいっぱいいて、小踊りしている。
『やったぞ!』
『桜井に春が来た!』
『中年の味がでたか!』
うるさい『俺』を鎮める。
顔がにやけないように、アゴを触って抑える。
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