2018人が本棚に入れています
本棚に追加
『キモイ』
騒音で聞き取れなかったが、唇の動きがそう言っていた。
こんな小娘(しかも可愛くもない)に、キモイと言われるとは。
俺は当たりを消化すると、トイレに立ち上がった。
隣の若い女は、ツンツンしている。
おいおい。お前が思ってるほど、お前は『イケてない』んだからな。
トイレを済ませ、手を洗おうと、鏡の前に立った。
昔は色男と言われた俺。
今は疲れきっていて、髪もボサボサ。ザ・オヤジと言いたくなる服装。
そしてメタボリックな腹。立派な中年オヤジだ。
昔の面影はなく、幸子の影が俺と重なる。
二人とも、すっかり変わってしまったな。何の魅力もない、ただの中年夫婦だ。
俺は改めて見た、己の姿に嫌気がさした。幸子の事は言えないな。この腹じゃ。
ポンと叩くと、いい音がした。
あいつがカバなら、俺はタヌキか。
だけどな、健康の為に痩せようとも思わないな。こんな体型だが、健康診断の結果は、いたって良好。
別に俺が太っていても、誰も気に止めないし。誰も俺を見てないのだから。
俺は台に戻ると、淡々と単純作業を繰り返した。コインを入れ、レバーを叩き、ボタンを押す。
最初のコメントを投稿しよう!