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黒い長い髪を、後ろで一つに縛り、地味なスーツに身を包んだその女性。
一見、とても地味でダサい感じだ。黒ぶちのメガネが、一層それを引き立てている。
が、しかし。ありがちなパターンで申し訳ない。
なかなかの『上玉』なんだよ、よく見たらな。
整った顔。
きめ細やかな白い肌。
黒目がちな、魅力的な瞳。
そして、今の若者になくなってしまった、清楚な感じがある。
「あの……?」
そう言われ、ハッとした。
いかんいかん。
「いや、何でもない。これから、会社に行かなきゃならないんじゃないかい?」
ゴホンと咳払いをし、少しかしこまって言ってみる。
「えぇ。ありがとうございました」
そう言ってはにかむ姿は、なんともかわいらしかった。
俺は『気を付けるんだよ』と残して、ホームを後にした。
本当ならそこでもう一本の電車を待つのだが、そこにいられない変な気分になっていた。
俺はタクシーに乗り込み、会社の名前を告げた。
走り出すタクシーから、外の風景を眺めて思う。
あれは大和撫子って言うのかな。今時珍しい黒髪。
それが映える白い肌。
まぁ、もう二度と会うことはないだろうが。
今まで一度も、あんな女性を見掛けた事もなかったしな。
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