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「え?」
小さくて聞こえなかっただろうから、もう一度稚早は言った。
昔からずっと憧れていた……心の中でいつも描いていた夢。
「俺、騎士に……強い騎士になりたいんだ。誰かを護れるくらいに……」
「……じゃあ、契約成立だなっ」
これには稚早も驚いた。
「え、ちょっ……いいのか?」
「……?つまり稚早は騎士団に入りたい。じゃあ、私が父上に頼んでみるよ。そのかわり、ちゃんと稽古してくれるっていう約束だ」
にっこり笑った凜を見て稚早は心臓がドクンと波打ったのを感じた。
(……騎士になったら……俺はこいつみたいな奴に……凛みたいな主人に仕えたい……)
ひどく厚かましい願いだが正直な気持ちでもあった。
「あぁ、契約成立だ」
二人はお互いに握手した。もしかしたら未来には、凛は稚早の手の届かないような尊い存在になっているのかもしれないが、今の二人はお互いに対等な立場だった。
それは稚早が威張ったからとか、凛が稚早に仕方なく合わせたからとかいう理由のせいではない。
他ならぬ凜自身が「私は姫ではなくただの凛だ」と言ったからで、稚早が臆することなく凜をまっすぐ見つめたからである。
「……でもさ。表向きは私が稚早を雇ったってことになる、よな?」
「それは……当たり前だろう」
それを聞いた凛は、うまいイタズラを思いついた少年のように口元をニヤつかせた。
「じゃあ、私付きの女官の椿から守ってくれ」
「?」
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