あの頃と今

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「どうして泣いてるの?」 「……」  顔をあげると、身体中に葉っぱをつけた少年が心配そうに自分のことを見ていた。 「悲しいことがあったの?」  正面にしゃがみこんで、少年は頭を撫でてきた。その手は優しくて、温かくて、嬉しさにまた涙が込み上げてくる。  あぁ。世界はまだ、私を見捨てたりしないでくれたんだ。この温かさを感じる心を奪ったりしなかったんだ。 「道に迷ったの? 家はどこ? 僕が送ってあげるよ」 「……家はない。……捨てられたから。私は、いらない、子……だからっ……」  堰を切ったように再び流れる涙。拭っても拭っても、枯れることなく溢れる。  少年はそんな彼女の頬を指でなぞり、涙を拭き取ろうとした。 「可愛い顔が台無しだよぉ? ほら、元気だして!」 「……」  そんなことない。元気だせるわけがない。  どれも言葉にならなくて、頭を横に振るだけ。  すると少年は「決ぃーめた」と言って立ち上がり、少女に手を差し出す。 「僕のパートナーにならない? そしたら一緒にいられるし帰る家もできるよ」 「パートナー……?」 「実は僕、吸血鬼なんだ。パートナーになれば君から血を貰うことになるけど。……恐い、かな?」  吸血鬼。伝説でしか知らない存在。人の血を乱暴に飲みあさり、恐れられていたという『人間ではない生き物』  でも目の前の少年はそんな怪物には見えない。  どちらにせよ、もう帰る場所なんてないのだ。答えは決まっている。   「……もう、一人にしないで……」 「もちろんだよ。僕も契約したら君なしじゃ生きていけないからね」 「私なしじゃ……」  朦朧とする思考の中で、その言葉だけは重く感じられた。 「君の名前は?」 「ひな、……朝倉雛……」 「可愛い名前だね。僕は青木空。よろしくね、雛」  緑の葉がまだ青々としていた頃の小さな山の中で、私は笑顔がとても愛らしい天使みたいな少年と出会った。  
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