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ここら一面に無数の生き物が
所狭しと蠢いている筈なのだ
壁の内部に
足を踏み入れたものだけが
他の視線に晒される
丘の上での彼の行動も
容易に想像出来よう
彼もまた
硝子の壁からは出られない
彼は椅子の上で手を伸ばし
鷹はまるでフラッシュの様に
消えたり現れたりを
繰り返しているのだ
彼の目から見れば
私と野兎はきっと
戯れている様に見えるのだろう
つまりこの壁を破壊すれば
好きな生き物を見
直に触り 遊び
追い落とすことも出来る
だが私達の目的は
壁の外にはない
生き物を追い詰めてはならない
私の役目は狩りではなく
少しずつ壁を拡げながら
行き交う姿を観察することだ
妄想と錯覚を繰り返す
何もかわりばえしない
生き物の姿を認められず
遙か遠くに丘や森があり
かすかに山脈が見える
遠くの方で彼が
規則正しく叫んでいる
気まぐれな野兎が
時折遊びに来ては
はっきりと足跡を付けていく
透明な硝子の壁があり
私はそこを出ることが出来ない
青空を仰ぐと
まばらに雲が浮いている
私は平原に招かれ
思案に暮れる
H19・6
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