2/3

24人が本棚に入れています
本棚に追加
/70ページ
  列車は線路を走る   ホコリが車両の床をうろうろと 行き惑っている 誰が落としたか 髪の毛を尻尾の様に垂らし 逆らうかの様に 反対方向へと駆ける   大人達が列をなし 踊り明かす夕べ 舞台の真ん中に地球儀 土民のリズムが響く ほら 天井を埋め尽くす竹筒 あれは    ……雨乞イノ、踊リ?   少年の幽霊が 呟きながら窓の外を指した ――僕の村は、   あそこにあります。   けれど、   ダムの底に、   沈んでしまいました。     螢が硝子の中をゆらゆらと つきまとう 綺麗な水を求め 哀しげに車内を覗く   大人達が列をなし 踊り明かす夕べ さらに痕跡は重なり合い 山を穿ち 草を掠め取り 土を踏み固めても 所詮は閉じられた環の お手玉に変わりないのに あれは    ……貶メル、踊リ?   兵士の幽霊が 祈りながら微笑んだ ――私は戦争をしている。   終わりなく、   引き分ける戦争を。   もう武器はとらない。   霧に肉は溶かされ、   雹に骨は砕かれた。   無意識のうちに、   追い立てたからだ。   だから武器はとらない。   たとえ一発のミサイルが、   私の心を灰にしようとも。     列車ハ線路ヲ走ルモノト ソウ昔カラ決マッテイル   昔から決まっている?     決マッテイル!     傘の柄が足下にくるくると はずれて落ちた 清潔な水はいつでも蓄えられ 願いはもう 充分に通じたのだから   列車は環状線を走る 今 少年の幽霊と兵士の幽霊が 静かに握手を交わしたところ          ……外は硫酸の雨        H6・7  
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加