殺哀喜

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 冷たい。 夕立の中、私は立ち尽くしていた。 何もかもがうっとうしい。 私を囲むようにそびえ立つ、コンクリートの壁、体中に降り注ぐ激しい雨、血に染まった刃。 すべてがうっとうしい。 二人だけの時間、最愛の友人との別れ。 今の時間を。 今の空間を。 今の全てを。 花のように。 石のように。 死のように。 静寂につつまれたかった。 葬送曲を奏でるのは、弾け、飛び散る、雨だけでいい。 視線を、舞う花びらのようにゆっくりと降ろす。 視線の先には、少年の死体。 地面が赤く染まろうとするのを、許さないかのように、少年から漏れる赤は、雨に流されていく。 私が塗った。 赤く塗った。 赤く少年を塗った。 赤しかなかった、私に与えられていた色は。 手袋も。 持っているナイフも。 赤く、きたなく、汚れている。 「こちら、ハイエナ。ジャッカル応答願う」
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