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感傷に浸る私をよそに、腕時計から聞き取るのが、やっとなぐらいの、小さな声が聞こえてくる。
今回雇った仕事の仲間だ、動物の名前は偽名だ、本当の名前なんて覚えていない、欲しいとも思わない、私は私が嫌いだから。
少し疲れた。
腕時計から聞こえてきた声は、私には邪魔な存在だ。
せっかくの、静かな時を壊される。
「こちらジャッカル、ゼブラは食したすぐに戻る」
「こちらハイエナ。 了解した三時にレインボーで会おう」
「了解」
簡単な会話、人と話すときはいつもそうだ、別に馴れ合おうなんて思わないが、少し寂しい気がする。
あの時の私も、人と馴れ合うのが苦手だった。
昔の友達の名前が、一瞬頭を過ぎった。
「百合香」
気が付けば、頬を流れる雨が生温い。
ああ。
私の、涙か。
「さようなら、アルベルト皇太子」
ポケットから取り出した、小さなロザリオの首飾りを、死体となった、少年の首につけて私は空虚な世界を去る。
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