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いつものように君を待つ。
春も近いのだろう。
桜の蕾も膨らんできたようだ。
女の子と一緒にお花見に行けたらいいなぁ。
よし、ちょっと外は怖いけどお花見にいい場所を探そう。
……あ、でも待てよ?
そう言えば今日は給食に煮干しが出るから急いで持って来るね、って言ってたっけ……。
どうしよう。
うーん…………。
すぐに戻ってくれば……大丈夫だよね!
まだ女の子が来る時間まで少しあるし、ちょっとだけ!
そう決め込むと久しぶりに麗らかな日和のもと、探検に出掛けた。
町内をぐるりと探検するととっておきの場所を見つけた。
神社の裏の桜の大木なんだけど何故かそこだけ早咲きの桜らしく、もう八分咲き。
明日にでも一緒に見に来よう。
そう決め込むとひとまず踵を返した。
いつもの路地に戻る途中、道路に人集りができているのが遠目に確認できた。
なんだろう、と気にはなるものの人間には関わりたくないから別の道を選ぼうとした時、一瞬僕の視界の隅に鮮やかな赤のランドセルが入った。
まさかっ……!
信じないのに。
信じたくないのに。
気付けば僕は人集りに向かって駆けて行く。
嘘だ、嘘だ、嘘だっ……。
人垣をくぐって僕が見たのは血だまりに浮かぶあの子の姿。
「可哀想にねぇ……」
「車に轢かれたらしいわよ」
「何をそんなに急いでたのかしら……」
何に急いでたか……僕にはわかるよ。
だって女の子が今尚ぎゅっと握り締めている袋から煮干しがこぼれていたから。
彼女のもとへと歩み寄る。
虫の息だった彼女だけど僕の姿を確認すると痛々しくもにこりと笑った。
僕の大好きな太陽みたいな笑顔だった。
「ほら、邪魔だよ」
呆然としていた僕はその声に我に返る。
少女を担架に乗せた救急隊員は僕を蹴散らすようにして慌ただしく彼女を連れて行った。
僕は真っ黒な野良猫。
人間の世界で僕が不幸の象徴というのはあながち間違ってないらしい。
結局はあの子も不幸にしちゃったもの。
それ以来、僕は一切の食事を断った。
責任を感じて。
でも心の中で女の子がいつもの笑顔で給食の残りを持ってきてくれると信じて。
一週間ばかりたった頃、ついに僕は襲い来る眠気に勝てずに静かに瞼を下ろした。
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