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「喧嘩してなければ、仲直りしていれば……カコは交通事故なんかにあわなかったのに――」
「知ってたよ」
ミキの悲痛な叫びを遮ったのはカコのひどく穏やかでひどく優しげな声音。
「ミキが毎週お見舞いに来てくれていたこと、知ってたよ」
「……っ」
せめてもの罪滅ぼしのつもりで毎週カコの病院に通った。
「ミキはいつも病室には入らなかったみたいだけど。それでも嬉しかった」
「恨んでないの? 憎んでないの? こんな私を」
カコはいつの間にか空の隙間から覗き始めた太陽のような微笑みだけで答えた。
そしておもむろに空を仰ぐと、さらに続けた。
「死なないでよ、ミキ」
「……っ」
「自殺を図った私が言えた義理じゃないかもしれないけどさ」
カコは苦笑混じりにそう漏らすと満足げに笑んだ。
「言いたかったのはそれだけ。もう行かなくっちゃ」
どこへ、と尋ねるより先にわかった。
カコの体が透け始めたから――。
ミキが手を伸ばすのも束の間――。
サアァァァ、と二人の間を緩やかな風が流れたかと思うとカコは、消えた。
「ありがとう」
たった一言そう残して。
同じ頃、カコの眠る病室では心電図に表示された緑の無機質な一直線がディスプレイの端と端を結んだ。
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