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都市部から車で二時間。僕はこの地に降り立った。
ジリジリと照りつける太陽の下、作業服にヘルメットというのは自分で言うのも何だが非常に暑苦しい。首に巻いたタオルで額に滲む汗を拭うと歩を進める。
――何年ぶりだろうか。
そんな淡い懐かしさはすぐに落胆へと変わった。
「……随分と変わったな、この辺りも」
小学校の夏休み以来、久しぶりに訪れた田舎を見た僕は足が地面に根を張ったかのように一歩も動けなかった。思わず握りしめた拳に力が入る。
――僕の知る風景はもうない、どこにもない。
かつての長閑な村の景色は見る影もなく、レジャー施設やショッピングモールが建ち並ぶ。今、地方はそうでもしないと生き残れないらしい。
そして、建設業に従事する僕がさらにここのホテル建設に携わるというのは何と皮肉なことだろう。それでも……この景色を壊す前にあの頃の風景を目に焼き付けておきたかった。それだけにすでに壊れた景観を見るのは残念で、無念で、仕方ない……。
もう二度とあの風景を取り戻せることはないだろう。
それからここで過ごした幼き日の僕ももう二度と戻ってくることはない――。
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