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僕は真っ黒な野良猫。
人間の世界ではどうやら僕は不幸の象徴らしい。
そのことに気付いたのは自分だけで色んな所を歩き回れるようになってからだった。
道を歩いても。
屋根の上を歩いても。
塀の上を歩いても。
不気味だと、嫌だと囁かれる。
寝ている所を石を投げつけられ、棒でつつかれ、逃げたら追い回される。
平穏なんて――ない。
存在全てを否定され、存在全てを受け入れられずに生きてきた。
僕が黒猫だから生きてちゃダメなの?
僕が何か悪いことした?
誰か、誰か、教えてよ……。
人間なんか嫌いだ。
大っ嫌いだ――……。
僕の中に渦巻く憎悪がすっと晴れていったのはある冬の午後、いつものように民家の隙間で雨風をしのぎながら息を殺していた時のことだった。
ふと視線を感じた僕が顔を上げると隙間を覗く女の子が一人。
毛を逆立てて威嚇し、あらゆる攻撃を想定し、備える。
けど、女の子は怯むことなく屈託のない笑顔を僕に向けた。
「ここにいたんだね、黒猫くん!」
黄色い帽子をかぶって、ランドセルとかいうものを背負った女の子はどうにかこうにか狭い隙間を上手く通って僕の所までやってくると何かを差し出した。
パン……?
僕は不審そうな目を女の子に向ける。
毒でも盛られているんじゃなかろうか、という僕の不安を敏感に感じ取ったらしい。
女の子は一口大に千切ると自分の口に放り込んではにかんだ。
「給食のパンだけどちゃんと食べれるよ!」
僕はパクリと一口かじった。
久しぶりにありついた食事は美味しくって夢中でかじりついた。
何より女の子の優しさがたまらなく嬉しかったんだ。
それから、女の子は毎日決まった時間にここに来るようになった。
食事をあげるかわりに話相手になって、と。
お安い御用だ。
女の子は僕の頭を柔らかい手付きで撫でながら色んな話を聞かせてくれた。
僕がいつもこの路地に入ってくのも見てたらしい。
あと、どうやら女の子はお父さんの仕事の関係で転校が多く、友達がいないそう。
「友達になってよ! 黒猫くん」
みゃあ、と高い声で鳴いた僕に女の子は太陽みたいな明るい笑顔になった。
僕は彼女のこの笑顔が何より好きだったんだ。
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