267人が本棚に入れています
本棚に追加
魔導暦3764年9月26日午前00時30分。海上都市ポセイドン某所裏路地。
「……ああ、繋がった」
灯りが殆ど無い、ゴミゴミした場所である。夜の腹の中に殆ど呑み込まれ、太陽の下に生きる種族には恐らく自らの掌も見えないような暗闇の中。
「すまない、ボス。連絡が遅れた」
転がっていた小さな石を、小さな巨人のもの程もありそうな大きな足が踏み砕いた。
規格外のサイズを誇るアーミーブーツは夜闇の中でも迷い無く真っ直ぐ進み、そのブーツに見合った巨体は狭い路地の中を器用にスルスルと進んでいく。
その耳元でチカチカと光を放っているのは、その体躯と比べると笑ってしまうくらいにサイズが合ってない携帯端末だ。小さ過ぎるであろうそれを器用に摘み、そいつは誰かと通話していた。
『──ロイド!?』
周囲に何の音源も無い所為だろうか。甲高く、まだ幼さが残るその声は、携帯端末からある程度離れていても十分に聞き取る事が出来た。
『ロイド! クソバカロイドじゃん! 今まで何やってんだよ!? 僕が何回電話したと思ってるの!? 何とか言ってみろこのオタンコナス!!』
「いつもよりキレが悪いな。どうした、具合でも悪いのか?」
『煩い! ロイドの事なんて全然心配してなかったんだからな! 誰か別の奴をそっちに送って間抜けなお前を回収して、みんなで笑ってやろうって話してた所だ!!』
「回収の話まで出ていたのか。すまない、心配を掛けてしまったようだ」
『だから……!』
反射的に反論しようとしたのだろう。年端もいかない少年の声に力が入る。だがそれよりもロイドの声が言葉を紡ぎ出し、結局その先が続けられる事はなかった。
「ブラックハーツと交戦し、敗北した。今は粗方回復したが、胸部限定武装が破損状態から元に戻らない」
『……は?』
「ブラックハーツだ。作戦区域で遭遇した。目的が被ったので交戦したが、己(オレ)が敗北した。任務状況もあまり芳しくない。抜擢されておきながら、申し訳無く思う」
最初のコメントを投稿しよう!