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少女は震えていた。
自分を追う者たちが恐ろしくて。
恐怖の奥の自分の感情が、恐ろしくて。
「魔女め…どこに隠れた…!」
ガサガサと茂みを揺すられ、思わず悲鳴が漏れそうになる唇を押さえる。
(私は魔女じゃない…)
ただ、人と違う容姿をしているだけだ。
この国の一般的な髪色、瞳と違うだけで、なぜ狩られなければならないのか。
震えながら、追っ手が去るのを待つ。
ようやく逃れたと安堵の息をついた時、不意に肩を叩かれて、ビクリと身体が跳ねた。
「ちょっと見た目が違うだけで魔女扱いは酷いよね。……この村は閉鎖的だから特に酷い」
少女を匿ってくれた少年は、申し訳なさそうにそう言った。
「うちはこの通り村の外れだし、滅多に人も来ないから、落ち着くまでいるといいよ」
もう、人なんて信用できない。
そう思っていたのに。
屈託のない少年の笑顔が、少しずつ、恐怖に凍った少女の心を溶かしていった。
愛しささえ、芽生え始めていたのに。
「…よくも…」
少女の瞳に浮かぶのは、憎悪。
「彼が何をしたというの!?」
血に塗れた少年を胸に抱き、少女が叫ぶ。
「…ま、魔女を匿ったりするからだ…!」
獲物を持った男の言葉に、更に沸き上がる負の感情。
「…許さない。絶対に許さない…!」
怒りと悲しみが入り混じり、少女の心が黒く染まっていく。
「皆、死んでしまえばいい――!」
ざわりと空間が揺れる。
少女を取り囲む男たちは、異変を感じて怯えるように辺りを見回した。
そして、次の瞬間。
「う、うわあぁぁ…っ!」
悲鳴をあげる男たち。
それを冷たく見つめる少女。
「火炙りになるのは魔女じゃなかったの?」
冷めた瞳のまま口元に笑みを浮かべ、突然炎に包まれた男に言葉をかける。
「……ああ。もう、聞こえないのね」
呟いて、少年に視線を落とした。
「生まれついての魔女なんて、本当はいないのに。魔女になんて、なりたくなかったのに…」
ぽたり、と少年の頬に雫が落ちる。少女の頬を伝って流れ落ちる雫が、少年の頬を濡らしていく。
「魔女になっても、人の命は自由にならない……」
少女の歎きが、小さく響いた――。
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