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穏やかな陽射しが、縁側に降り注ぐ。
春の薫りを含んだそれは、柔らかで暖かい。
「姫さま。そんなところで寝てたらはしたないですよ」
やや高めの少年の声が聞こえて、縁側で寝転んでいた少女はうっすらと目を開けた。
身じろぐと、艶のある長い黒髪がさらりと庭に滑り落ちる。
「ほら、せっかくのお髪が汚れてしまいますよ」
気にする様子のない少女に代わり、傍らに膝をついた金髪の少年がその髪を掬い上げる。
「ほんにお前は口煩いやつじゃ。拾ってやった時は素直な子鬼じゃったのに」
俯いた時に金の髪の間にちらりと覗く二本の小さな角を眺めながら、少女はわざとらしく嘆いてみせる。
「姫さまは変わりませんね。…着物が乱れてますよ」
ため息をつきながら、少年は少女の着物の裾を直す。
「花の乙女に触れるのじゃ。少しは恥じらって見せぬか」
「姫さまこそ、少しは恥じらいを持ってくださいね。輿入れされたら、今までのようにはいかないんですから」
「誰も『鬼憑きの姫』に期待などしてなかろうがな」
自嘲気味に呟いた後、少女はそっと目を伏せた。
「……わかっておる。じゃから、これが最後じゃ」
小さく呟きながら伏せた目を開くと、少女は少年の頬へ手を伸ばす。
その手に自らのそれを重ね、少年は身を屈めた。
――これが最後……。
共に胸の内で唱えながら、互いの唇を重ねた。
人目を気にせず日だまりでまどろむのも、
人に秘めたるこの想いも。
すべては最後。
穏やかな春の陽射しだけが、彼らを包んでいた――…。
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