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桜が散る。
はらはら。
はらはらと。
舞う花びらに視線を奪われる。
「そんなところで何をしているの?」
ぼーっと桜をみつめていた廉に、話しかける女の子。
「別に…なんとなく見てただけ」
「ふぅん…?」
廉はちらり、と女の子に視線を向けるが、すぐに興味なさそうに視線を戻した。
そんな廉に、女の子がくすりと笑う。
「あまり見つめすぎると、惑わされるよ」
10になるかどうかという外見の女の子に、不釣り合いなその笑み。
「それとも……惑わされることを望んでいるの?」
どこか艶めいた声に、廉は再び視線を巡らせる。
視線の先には、女の子……ではなく、目を瞠る程の美女。
「それなら、惑わしてあげる」
そんな言葉とともに美女の腕が廉の首に回される。
「……幻想の中でおやすみなさい」
囁きは耳元。
吐息は首筋に。
美女の腕の中、首筋に熱を感じながら、廉は桜を見る。
見つめる。
(…とっくに惑わされてたんだ)
桜を目にした瞬間から、すでに。
(桜の下には……って、昔何かで見たな…)
ぼんやりと思いながら、廉は美女にその身を預けた。
「……おやすみなさい、永遠に」
――桜(わたし)の腕の中で…。
桜が散る。
はらはら。
はらはらと。
翌年再び咲き誇るため。
終わりを始まりに、生命を繋ぐ。
はらはら。
はらはらと――…。
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