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「こんにちは。」
ソファーでお気に入りの雑誌を読んでいると声が後ろから聞こえ、足音がこちらへ近づいて来るのがわかる。
私は一人暮らし中で今だって友人を招いていた訳でもない。
こうやって前触れもなく突如現れるのは大方彼に違いないだろう。
途端、見ていた雑誌に影がかかったかと思ったと同時にぬっと自分の顔の横より少し高めくらいの位置に雑誌を覗き込むようにして彼は現れた。
「また来たんだね、臨也。」
見上げるといつものように全身を黒い服で纏った男、臨也がまじまじと雑誌に目を通していた。
丁度そこはスイーツの特集のページ。
臨也って甘いの好きだったっけ?などと思いながら私もそのページに再び目を落とした。
季節の素材をふんだんに使用した色とりどりなスイーツの写真が沢山載っている。
どれも美味しそうで思わず食べたいという感情にかられてしまうほどだ。
別に特別甘い物が好きだと言う訳でもないのだが、カメラマンの巧みな技術により一層美味しそうに写されたこの写真たちを見れば誰しもそう思うに違いないのではないだろうか。
暫くお互い無言でそれを眺めていると、ふーん…と臨也が小さく声を漏らした。
「食べたいの?」
臨也にしては珍しくまじまじと凝視していたのが気になって尋ねてみる。
「んー別にそういう訳じゃあないんだけどね。」
「じゃあ、何?」
更に追求してみると臨也はこちらをじっと見つめてからニヤリと笑った。
嫌な予感がして彼から離れようとしたのと、彼が私の首に腕を絡ませてきたのはほぼ同時だった。
ソファーから立ち上がろうとしていた私の体はまた元の位置へと戻されてしまう。
その間も臨也はずっとニヤニヤとしたままでこちらを見ているのが私には振り向かずともわかってしまった。
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