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「ここの学校にもあるんだね。」
いきなりそう話かけられ、僕は少し驚いて声のした方へ振り向いた。
「梶本健二くんだよね?」
「えっと、君は有…ありさわ…ありかわ…」
「有坂、有坂芯(ありさかしん)。」
そうだ、有坂くんだ。
昨日うちの学校に転校してきた。
確か関西の学校から来たような事を自己紹介で言ってたっけ。
「ねえ、健二って呼んでいい?僕のことは芯(しん)でいいから。」
いきなり名前で呼び合おうなんて、なんつう馴れ馴れしいヤツだ。
でも特に断る理由が思いつかなかったのでとりあえず承諾する。
「えっと、有坂くんがさっき…」
「芯(しん)でいいよ。」
「じゃあ、芯。さっきこの学校がどうとか言ってたけど、いったい何のこと?」
すると芯は教室を見渡し、僕らの会話を誰も聞いていないのを確かめると、いきなり顔を寄せてきた。
「な、なんだよ!」
「静かに!あまり他人に聞かれたくないんだ。」
そう言うと芯は僕の耳元で囁きだした。
僕はちょっとドキドキする。
有坂芯はどう見ても美形という部類に属する、いわゆる転校初日に女子に騒がれるような男だった。
その整った顔立ちと白い肌は、男の僕でさえハッとするほどだった。
けして僕にはそっちの趣味はないけど、なぜか顔が赤くなるのがわかった。
「実はね、この学校にも“扉”があったんだ。」
扉?ここは学校なんだから教室や職員室などの扉はいくらでもある。
一体この男は何を言っているのだろうか?
「何を言ってるんだって顔してるね。扉と言っても、もちろん普通の扉じゃないんだ。それは特別な扉。」
僕は全く意味が解らず呆気に取られてると、廊下の方から聞き慣れた声がした。
「健二~!帰ろうぜ!」
僕は声の主に手を振りながらOKの合図をした。
聡(さとし)は中学からの友達で、今の高校ではクラスは違えど、毎日つるんでいるいわば親友だ。
僕は芯の方へ向き直ると、彼は無言で軽く頷くと去って行った。
聡と一緒の帰り道、それなりに話は盛り上がったのだが、家に着くと今まで聡と楽しく会話していた内容をほとんど覚えていなかった。
ただ、脳裏にはずっと“扉”の文字が焼き付いて離れない。
早くこのモヤモヤを洗い流したくて、すぐに風呂に浸かる。
数年ぶりの早風呂だった。
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