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翌日、教室に入ると女子達の群れが出来ていた。
なんとなく予想はできたけど、案の定その群れの中心には有坂芯(ありさかしん)がいた。
芯は慣れているらしく笑顔でスマートに対応していたのだが、僕に気付くと女子達を笑顔でかわしながらこっちに近づいてくる。
「やあ健二おはよう」
「ああ、おはよう」
「夕べはちゃんと寝れた?」
「は?」
この男はなぜそんな事を聞くのだろう?
「ちゃんと寝れたってどういうこと?」
「ほら昨日、会話の途中だったしさ。もしかしたら気になってんかな~なんてね。」
実は少し、というか、かなり気になってあまり寝れなかったのだが、そんな事を言ったら負けなような気がして僕はとぼけた。
「いや、全然寝れたよ。なんで?」
「それならいいんだ。たまに気になって眠れなくなる人もいるから。」
「てことは、他の人にも同じ話をしてるの?」
芯は少しオーバーなくらい両手を振る。
「ううん、この学校では君だけだよ。」
なんのこっちゃ。
僕は芯の言っている事がよく解らず、自然にため息が出たあと、カバンから教科書とノートを出して机にしまった。
「健二~そんなに怒るなよ~」
芯のその言葉がなんか馬鹿にされてるようで、つい口調が荒くなり反論してしまう。
「つーかさ、君は初対面からなんか馴れ馴れしくない?意味の解らない事も言ってくるし。僕なんかと話をするより女子に囲まれていた方がいいんじゃない?普通は。」
すると芯の美形が険しくなり初めて、とは言っても会話するのはこれで二度目なのだが、少し声を荒げながらさらに反論してくる。
「僕は彼女らに囲まれるためにここに来たわけじゃない!僕は…」
そこで言葉が途切れ、芯は片手で頭を抑えながら“やれやれ”という素振りで僕の前の席に座った。
僕はそんな芯の態度に驚きながらも必死に冷静を装った。
「な、なんだよ、急に声荒くして。」
「ごめん健二。僕が悪かった。気にしないでくれ。それより今日、授業が終わったら少し付き合える?」
「え?」
そこで数学の先生が教室に入ってきたので、芯はもちろん他の生徒も各々自分の席に着く。
すぐに授業が始まったのだが、少しパニクっていた僕は数学の先生の名前をど忘れしてしまった。
芯が転校してきてから少しずつ、僕のリズムは狂い始めていた。
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