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結局、数学の担任の名前は思い出せなかった。
授業が終わると案の定、芯(しん)が僕の席に近づいてきた。
「そういえば昨日、君と一緒に帰った友達は誰?」
「昨日?ああ、聡の事?。中学からの親友。高校に入ってからはクラスは違うけど今でもつるんでるんだ。」
「ふ~ん。」
自分から聞いてきた割には微妙なリアクションで僕は思わず顔をしかめたが、芯はそんな事はお構いなしという感じで、いつもの口調で話掛けてくる。
「あのさ“今田ことみ”っていう子知ってる?ここの学校の子らしいんだけど。」
「今田ことみ?」
僕は記憶を辿ってみたが、その名前に行き着かなかった。
ただ、なぜか脳裏の奥に少し痛みを感じた。
「そう、今田ことみ。知らない?」
「知らない。誰なのその子。」
「昨日、健二がその友達の…」
「聡」
「そう、聡くんと一緒に帰ったあと、僕もすぐに学校から出たんだけど、その時にちょっと変わった子を見かけたんだ。なんか妙にこそこそしながら、まるで探偵か刑事みたく誰かを尾行しているみたいな。」
僕はなんか面倒くさくなって、ぶっきらぼうに「その子が今田なんとかちゃん?」と聞いた。
「そう!今田ことみ!よく展開を読めるじゃないか!」
芯は、僕のぶっきらぼうさに全く気にもせず、そのドキッとするような笑顔で言葉を返してきた。
僕は反射的にその笑顔から目を背くべく、携帯を取り出しメールチェックを始めた。
「おいおい、せっかく親友の僕が話してるのに携帯はないだろう。」
僕は携帯を閉じ、「いつお前と親友になったんだよ!」と言った瞬間、芯は気持ち悪いぐらい僕に顔を近づけ不敵な笑顔で囁いた。
「その今田ことみが尾行していた相手が、君と聡くんだったんだよ。」
「え?」
「それで、僕もちょっと好奇心が湧いて今田ことみを追ったんだけど、彼女、尾行ヘタだね~。つうか、どんくさいね~。」
僕はなぜか、彼女に対する芯の悪口に妙に腹が立って思わず睨んでしまった。
すると芯は美形を曇らせ、「あれ?なんか気に触った?もしかして、今田ことみ とは実は知り合い?まさか健二の彼女だったりして♥」とほざきやがった。
僕は怒りで立ち上がろうとしたが、急に激しい頭痛に襲われ席を立つことができなかった。
芯はそんな僕の姿を見て微笑んでいた。
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