白紙の少女

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 暗闇のなかに、あたたかなオレンジの光がひとつ、灯っています。ランプの炎でしょう、明かりは時折、じじ、と、音を立てて。  その明かりを頼りに、男は歴史書を紐解いているようでした。年はもう五十を過ぎたくらい、けれどその瞳は、青年と変わらぬ輝きに満ちています。  ページを繰るときの、紙と紙とが擦れ合うわずかな音が、今は無人となった図書館に響きます。その音と、ランプの芯が燃える音と、もうひとつ。三つの音が、静かな空間に流れていました。  男はふと顔をあげ、三つ目の音の主へと、その視線を向けました。密やかな音は、少女の寝息でした。鮮やかな緑の髪を机に流して、少女はあどけない寝顔をさらしています。  息をついて男は席を立ち、読んでいた書物を閉じて箱にしまいました。それから、少女の肩をそっと揺すって、その眠りから引き上げようとします。ささやくように名を呼ばれ、彼女はようやく瞼を開きました。現れた瞳の色もまた、新芽を思わせる緑です。 「遅くまで付き合わせてしまったね。さ、帰るとしよう、ラル」 「はい、おとうさん」  そうして、書物の入った鞄と、寝ぼけ眼の少女を連れて、男は静けさに包まれた図書館をあとにしたのでした。
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