不眠薬

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「なんてことだ、これじゃあ今年もダメではないか!」 彼はベッドの上へ半身を起こし、おのれの不甲斐なさに歯がみした。 「よし、こうなったら」と言うなり階下へ赴き、玄関の電話に手をのばす。 「んっ、どうした。なんの用じゃ?」送話口から彼の父であるI氏の声がもれた。 I氏は、某大学の薬学部で教授を勤めている。 「お父さん、いきなりで悪いんだけど頼まれてくれないかい」 「なにを、じゃ?」 「あのね、お父さんのところで不眠薬は作れないかな」 「なぬ、不眠薬じゃと!」受話器ごしに声がはねあがった。 「それは不眠症の治療薬の間違いではないのか!?」 「違うよ。不眠薬だよ不眠薬。つまりは、睡眠薬と逆のものだよ。どうなの、出来るのできないの?」 「うむ。出来ないことはないが、いったいそんなものなんに使うつもりじゃ」 「できるんだね。だったら、いっこくも早く作ってくれる。頼んだよ」 彼は用件をつげると、慌ただしく受話器を架台に叩きつけた。 わずかの間も、惜しいのだった。 志望大学の入学試験は半年後である。 彼は飯と糞と風呂を計十分で済まし、自室へ駆けもどった。 脳裏には、バラ色の学園生活が渦巻いていた。
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