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翌日、またしても彼は床の上で寝息を立てていた。
部屋の戸をノックする音で目が覚めた時は、またもや昼前。
「うわあああ、またやってしまった。またやってしまった」と、わめきながら戸を開ける。
細長いフラスコを片手にI氏が突っ立っていた。
「ほれ、頼まれたものじゃ」
「へぇ、もう完成したんだ」I氏から受け取ったフラスコをつくづくと眺める。
なかで、紫色の液体がブクブクと泡立っていた。
「これって、本当に不眠薬? なんか違う薬じゃないよね?」恐るおそる尋ねる。
「なにを言うか。父を信用せんのなら、返せ!」たちまちI氏は気色ばんだ。
「じょ、冗談だよ。冗談」彼は引ったくられそうになる薬を慌てて懐にかき抱く。
「それじゃあ、効果のほうもバッチリなんだね」
「やはり、何からなにまで疑っとるのだな」
「いえいえ、めっそうもございません」彼はI氏の機嫌を取りなそうと、お世辞を並べ立てた。
「なにせ、お父うえは頭脳明晰で博覧強記で聖人君子で、そのうえ」
「ああ、もういい」I氏は彼にストップをかけ、薬の説明を始める。
「そのフラスコには目盛りの線引きがしてあるじゃろ」
「ええ。そうですね」
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