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それから三ヶ月後。彼の勉強は、まるではかどっていなかった。
不眠に失敗したわけではない。薬はバツグンに効いた。ずっと起きっぱなしである。
しかし、眠気がまったく取れなかったのだ。日毎に増していく。
つまりは読んで字の如くの不眠薬。薬は彼を完璧な不眠症にしただけだった。
ヒドイ話である。
まずはその日の夜にモーレツな眠気に襲われ、受験勉強を放り出しベッドへもぐり込んだ。
一時間が経ち、二時間が経過しても目は覚めたままだった。
これに腹を立てて起き上がり、ふたたび机上の参考書に向き合った。
が、頭はひどく混濁しているもんだから勉強なんて手に付かない。
そして一周間目辺りからは勉強する気力が消え失せ、食欲さえもなくなってきた。
幻覚が見え出したのは一ケ月が過ぎた頃だろう。
小人の軍隊が部屋を横切り、ピンクの象によるタップダンス・ショーの開演である。
今、彼は部屋の隅にうずくまりガタガタと震えている。
「くそぉ、あの馬鹿オヤジ」虚空の一点を無意味に見つめた。
「なにがこの薬の効果は絶大で、解薬不可能だ、まったく。俺はこれから先……。うぎゃああああああ、サ、サメの大群だああああああ!人食いサメの大群だああああああ!」
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