ラクガキ

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「えぇっ、皆様お静かに」と、ツアーガイドがハンドマイク越しに言う。 「左にみえますのが」その土地の名所の説明を始める。 乗客たちは皆いっせいに、ガイドが掌で示す方をむく。 つい今しがたまではワイワイガヤガヤうるさかったのに、この時ばかりはおとなしいもの。 暇にあかせての旅行とはいえ、それなりの散財はしている。 見るべきもの、聞くべきこと、それらはしっかり見聞しないと損。 なかには熱心にメモを取っている者もいる。 しかし、子供はそうもいかない。すぐに飽きる。 名所になんて、興味がない。 両親に連れられてきた旅行は、楽しい。 だけど、時に退屈。 彼は周りの目を盗んで、自分の座っている後部座席の窓を開ける。右側。 皆の視線は、観光名所。左側。気付かれない。 ポケットからペンシルを取り出し、地面に手を伸ばす。 届くわけがない。 彼はぐるりを見渡す。棚の上。長い棒がある。あれなら。 彼は座席に立ち上がってその棒を手に取ると、窓から身を乗り出した。
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