キスを下さい。

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キスを下さい。 受験前と言う大切な時期に机に肘を撞いて、俺は何かが抜けた様にぼーっとしていた。 目の前には大量の参考書や辞書が乱雑に積み重なっている。 別に問題に行き詰まっている訳でもない、何も考える気力が起きない。 その原因は一週間前に遡る。 ほんの些細な事で鎖介と喧嘩をしてしまったんだ。 今迄に喧嘩は何回もして来たけど、今回の口喧嘩に関しては酷過ぎて、別れ話に迄発展した。 中学時代の冬、丁度3年前の受験の季節に鎖介は俺に告白してくれた。 「好きだ。」 たった3文字の言葉だったけど、俺はとてもそのシンプルな言葉が嬉しくて、泣きながら頷いた。 初めての告白、初めての優しい抱擁、初めてのキス、初めて出来た愛しい恋人。 何もかもが初めてで、当時は少し不安にもなったけど、何時もそんな俺を鎖介は優しく受け止めてくれた。 同じ県立の高校に受かった日、鎖介に身を任せて深い口付けと躯を重ねた。 鎖介と付き合い始めてから、毎日が幸せで。 一緒に学校へ通って、授業を受けて、放課後はデート。 本当に鎖介と一緒に居られる日々が嬉しくて、楽しくて幸せ過ぎる位幸せだった。 俺はこの幸せがこれからもずっと続いて行くんだって、信じてた。 小さな口喧嘩はしても、長くて一日。 直ぐにお互いが謝って来た俺達に心配する事はなかったから。 けど、今回は違った。 一週間前の日曜日、俺は久々に鎖介と街でデートをしていた。 映画を見て、ご飯に行く途中、物凄く綺麗なお姉さんと鎖介が道でぶつかった。 勿論、鎖介も滅茶苦茶格好良い。 普通に謝って立ち去ろうとした俺達にお姉さんはサングラスを除けてウィンクをするとその儘去って行った。 何時もなら女の子に興味を持たない筈の鎖介が、ずっと人混みの中に消えたお姉さんを見ていたかと思うと、急に真っ赤になった。 「どうしたの?」 お姉さんを見て紅くなった鎖介を不快に思った俺は、透かさず鎖介に訊く。 鎖介は相変わらず紅くなった儘顔を抑えた。 「ヤベェ…。///」 「何が?」 段々苛々して来た俺。 今迄もお姉さんに逆ナンされて来た癖に、ウィンクされただけで何でそこ迄紅くなる必要があるんだろう? ムカムカする胸を抑える俺を鎖介は気付いていない。 今日に限って浮かれている様に見えた。
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