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もう最後でも良い。
鎖介にちゃんと謝りたい。
また鎖介の優しいキスが欲しい。
電話やメールじゃなくて、直接言いたい。
俺は机の上の携帯電話を取って画面を開いた。
付き合って一年目…高校1年の時に撮ったプリクラの待受。
鎖介もずっと同じ待受にしてくれている。
凄く幸せそうな昔の俺達に謝って、溢れ落ちそうになった涙を拭う。
椅子を立ちジャンパーを羽織って部屋を出た。
鎖介と喧嘩をして学校を休んだ次の日に教室へ行くと、鎖介は風邪で休みだって知らされた。
鎖介は昔から一度熱が出ると中々引かない。
帰りに鎖介の家に寄ったけど、俺は門の前で怖くなって引き返した。
でも、もう逃げてばかりじゃ駄目だ。
家からから5分位歩いて鎖介の家に着くと、俺は深呼吸をしてインターホンを押した。
玄関扉が開き、出て来た鎖介の兄ちゃんに頭を下げる。
「今日和。」
「今日和成斗君。久しぶりだね。鎖介のお見舞いに来てくれたのか?」
「はい…。会いたくなって……。」
頷いた俺に鼬兄ちゃんはお礼を言って中に入れてくれた。
何回も鎖介の家に遊びに来た事はあるし、鼬兄ちゃんは俺が小学生の頃から知っている。
それに、俺が鎖介と付き合っている事も知っていた。
「あの、鎖介寝てますか?」
「今夕食を持って行こうと思ってたんだ。あ、成斗君?」
「はい?」
「良かったら、鎖介に何か作ってやってくれないかな?俺のレトルトより、成斗君の手料理の方がアイツも喜ぶから。」
「はい、ありがとうございます。」
笑みを浮かべた鼬兄ちゃんに釣られて笑う。
鼬兄ちゃんは、俺と鎖介が喧嘩してる事知ってるのかな?
訊こうか迷った俺に鼬兄ちゃんは2階を見て笑った。
「何だか鎖介の奴この前から元気がないんだょ。」
「あ、俺―――…」
「いいょ、原因なんて分かるからな。成斗君?鎖介はあの通りの奴だが、成斗君を思う気持ちだけは真剣だから。」
気を利かせてくれたのか、鼬兄ちゃんは俺と入れ違いに家を出て行った。
鼬兄ちゃんの言葉が嬉しい。
俺は靴を脱いで先に台所を借りに上がった。
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