1人が本棚に入れています
本棚に追加
王国ダインは、穏やかな気候の大国だ。
王は、力強く賢く、人望もある。
一人娘のアリアは、気の強い美姫で、国民に慕われていた。
金の髪は緩く波打ち腰まで届き、陶器のような肌、強さを感じさせる深い緑色の瞳、完璧な形の唇は化粧をしなくとも赤い。
アリアは男勝りな質で、すぐに髪を切りたがったし、鎧兜や剣を持ちたがった。
両方とも、父王に止められては大喧嘩になったが…。
美しく成長したアリアの成人の儀式では、招待された各国の要人が溜め息をついた。
「何と美しい姫だ!」
「まるで、女神だ!」と。
当然、それ以来アリアの結婚話は山の様にやって来た。
美しい妻と、大国の王位が約束されているのだから…。
気の強いアリアは、
「冗談じゃない!お父様、勝手に決めたりしたら、その相手を〈女〉にしてやるから!」
そう言いながら、小刀で近くの衛兵の股間を示した。
王は
「全く、お前と来たら…。」
と首を振った。しかしアリアのじゃじゃ馬っぷりが、実は嫌いでは無かった。
亡くなった妃も、気丈な性格だった。
そんな平和な日々は続かなかった。
アリアの成人の儀式にも招待していた、南側の〈帝国 バルゴ〉が、その頃から不穏な動きを始めたのだ。
帝国バルゴには、戦好きな帝王と、「鬼姫」と呼ばれるガナシェ姫がいる。
年頃はアリアと同じ筈だが、そのガナシェがダインに目を付けた。
小さないざこざが絶えなくなり、次第に両国の仲は悪くなった。
そして、とうとう、アリアが拐われたのだ。
アリアが部屋で眠っている間に、何者かが侵入した。
いち早く気が付いたサイラが、アリアの部屋に駆け込んだ時には、数十人の男達が失神したアリアを窓から連れ去る所だった。
男達は、皆、完全武装をしていた。
「サイラが来た!」
彼等はサイラが来る事を予期していたらしく、すぐにアリアを連れ去る者とサイラと戦う者に分かれた。
「アリアっ!」
サイラが叫んでも、ピクリともしない。
周りにいる兵士を倒し、連れ出されるアリアを助けるには、余りにも相手が多すぎた。
剣の腕の強さでは、他国にも知れたサイラだったが、一人、又一人と斬り倒している間に、アリアは窓の外に連れ出された。
焦ったのが、命取りだった。
最後の一人と 相討ちになり、頭部に刀傷を受けたサイラの意識は途絶えてしまったのだった。
最初のコメントを投稿しよう!