届かない空

3/5
前へ
/55ページ
次へ
王国ダインは、穏やかな気候の大国だ。 王は、力強く賢く、人望もある。 一人娘のアリアは、気の強い美姫で、国民に慕われていた。 金の髪は緩く波打ち腰まで届き、陶器のような肌、強さを感じさせる深い緑色の瞳、完璧な形の唇は化粧をしなくとも赤い。 アリアは男勝りな質で、すぐに髪を切りたがったし、鎧兜や剣を持ちたがった。 両方とも、父王に止められては大喧嘩になったが…。 美しく成長したアリアの成人の儀式では、招待された各国の要人が溜め息をついた。 「何と美しい姫だ!」 「まるで、女神だ!」と。 当然、それ以来アリアの結婚話は山の様にやって来た。 美しい妻と、大国の王位が約束されているのだから…。 気の強いアリアは、 「冗談じゃない!お父様、勝手に決めたりしたら、その相手を〈女〉にしてやるから!」 そう言いながら、小刀で近くの衛兵の股間を示した。 王は 「全く、お前と来たら…。」 と首を振った。しかしアリアのじゃじゃ馬っぷりが、実は嫌いでは無かった。 亡くなった妃も、気丈な性格だった。 そんな平和な日々は続かなかった。 アリアの成人の儀式にも招待していた、南側の〈帝国 バルゴ〉が、その頃から不穏な動きを始めたのだ。 帝国バルゴには、戦好きな帝王と、「鬼姫」と呼ばれるガナシェ姫がいる。 年頃はアリアと同じ筈だが、そのガナシェがダインに目を付けた。 小さないざこざが絶えなくなり、次第に両国の仲は悪くなった。 そして、とうとう、アリアが拐われたのだ。 アリアが部屋で眠っている間に、何者かが侵入した。 いち早く気が付いたサイラが、アリアの部屋に駆け込んだ時には、数十人の男達が失神したアリアを窓から連れ去る所だった。 男達は、皆、完全武装をしていた。 「サイラが来た!」 彼等はサイラが来る事を予期していたらしく、すぐにアリアを連れ去る者とサイラと戦う者に分かれた。 「アリアっ!」 サイラが叫んでも、ピクリともしない。 周りにいる兵士を倒し、連れ出されるアリアを助けるには、余りにも相手が多すぎた。 剣の腕の強さでは、他国にも知れたサイラだったが、一人、又一人と斬り倒している間に、アリアは窓の外に連れ出された。 焦ったのが、命取りだった。 最後の一人と 相討ちになり、頭部に刀傷を受けたサイラの意識は途絶えてしまったのだった。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加