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サイラは、額の細いリングを撫で、右側のこめかみから額にかけての傷を見せた。
「『ブレイナー』が、このリングが刃先を止めてくれた。それなのに、私は気を失ってしまったんだ!」
握りこぶしを震わせ、項垂れる。
「アリアを拐われるなんて…」
サイラが肩を震わせた。
「その…アリアと言う姫は…今はどうなって…?」
恐る恐る聞いてみると、サイラは顔を上げて、鋭い眼差しをした。
「アリアは…しばらくは、守護魔法が効いている。しかし、どこまで持つか…」
「…?!魔法?」
「あぁ、ダインには、まだ守護魔法なら出来る程度の弱い魔法使いが居るんだ。
アリアは、その力で眠っている筈だ…。誰もアリアを傷付ける事は出来ない。
しかし、いつまで持つか…あと10日かも知れないし、明日かも知れない。だから、一刻も早く助けなくては…。」
やっと、この二人の事情が分かった。
拐われたアリアと言う姫を助ける為の旅。
あの追っ手は『帝国バルゴ』のもの達なのか。
「何故、たった二人で?」
「…戦を避ける為だ。アリアを拐った奴等が、バルゴの兵士だと言う証拠は無い。
私達はこの先のアンカシャンテ山に住む、雪姫ネレルに助けを求めに行くつもりなのだ。」
魔法使いに、雪姫?
ここは、明らかに空の住む世界とは違っている。
「その前に君を川の上流まで送るがな。」
「魔法とか…僕の世界には無いんだ。ちょっと驚いたよ。」
空が言うと、サイラが頷いた。
「かつてここにも多くの魔法使いが居た。この世界には、不思議な力を持つ人々が普通に存在していた。
彼らは、大抵が善良な心の持ち主で、その力を争う事なく使い合い、平和に暮らしていた…。
しかし、何の力も持たない人間達は、彼等を騙し、利用する事を覚えたのだ。そして…。」
サイラは、ここで何故かシャミイを見た。
「彼らは、『狩られた』。」
「狩られた?」
「そうだ。人間達は、我先に魔法使いと呼ばれる物を狩り始めたのだ。そして、私が産まれた頃には、すっかり少なくなっていたのだ。
我が王は彼等を狩らずに救済し始めた。その名残で、数少ない魔法使いが城に居るのだが…。」
ここで再び、シャミイに視線を移す。
「シャミイも…その生き残りだ。」
「え?」
「シャミイの一族の力は、他に無かった。
彼等は、怪我を治す力を持っていた。」
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