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道無き道とは、この事だろう。
トレッキングをした事は何度かあるが、これは全くの別物だ。
草木を分け、入り組んだ木の根に足を取られない様に、ぬかるみや岩だらけの森をひたすら前進した。
しかし、今の空には、それが苦でもない。足は軽かった。
体が楽で、ひょいひょいと障害物を越えた。
「ソラ、すごい!でも、速いよ~。」
シャミィが叫ぶ。
「ごめん。手、貸そうか?」
空が手を差し出すと、シャミィがびっくりして大きな目で見返した。
そして、まるで不満があるかの様に
「ソラは優しい。」
そう呟いたまま、一人で歩き始めてしまった。
二人の様子を眺めながら、サイラは難しい表情をしていた。
空の携帯で、約3時間歩いた頃、
「もう着くぞ。」
と、サイラが二人に声をかけた。
「昔の…村の趾だ…。」
サイラの視線の先には、荒れ果てた村趾があった。
既に長い年月のせいで雑草が生い茂り、家だったと思われる木材が散乱している。
焼けた黒い跡があちこちに残り…
「焼き討ちされた、魔法使い達の村だ。」
サイラが言わなくても、想像がついた。
あちこちに骸骨が転がり、重なり、悲惨な当時の様子が伺えた。骸骨達は様々な杖や、幾層にも重なった美しい布を纏い、とても痛々しかった。
「可哀想に。子供の骨まで…。」
シャミィが口元を押さえた。
サイラは無言のまま村の中を進み、小高い丘に向かった。
「川の上流だ。あそこに崖があるんだが…空の帰り口があるのかどうかは…。」
正視出来ないまま、空は村趾を歩いた。
嫌な気持ちがして、吐きそうだった。
クラクラして、息をしたいのに出来ず、足だけ無意識に動かしていた。
小高い丘の上に一足早く着いたサイラが、
「これは…。」
と短く呟いた。
「サイラ、どうしたの?何かあった?」
「いや…ここにも…骨が…。」
シャミィが足元を見て、短い悲鳴を上げた。
「女の人の骨だね…ひどい。
だって…これって…」
女性は、右手を崖に向けたままの姿で骨になっていた。
その右手に、何かあった。
キラキラと光る、輝石飾りのブレスレット…。
「これって、赤ちゃんが産まれた時のお祝い飾りだよね。この人…お母さんだったんだよ。赤ちゃん抱いて、崖っぷちまで逃げて…それで…。」
涙ぐんでから、
「あれ?赤ちゃんの骨は?」
と、不思議そうに言った。
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