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シャミィがキョロキョロしている。
「赤ちゃんの骨があれば…この人の近くに置いてあげたいのに…。」
草むらを覗き込みながら、シャミィが言う。
その後ろ姿を見詰めながら、空の手が震え出した。
異変に気が付いたサイラが
「ソラ、どうした?」
と、肩に手を置いた。
シャミィも振り返り、空の様子を見て驚いた。
地面に膝を付き、肩を震わせて、空が泣いていた。声を押し殺し、涙をポロポロと流して。
「ソラ?」
「ソラ?どうしたの?」
二人の声が、遠くに聞こえていた。
でも、涙を押さえられなかった。
「…こ…この人は…この…」
言葉は嗚咽に変わった。
多分、若い母親だったに違いない、骨。
赤ん坊を抱きながら、この崖道を走ったのだろう。
追っ手から赤ん坊を守ろうと、必死に、必死に。
崖っぷちに追い込まれた母親は、
『この子だけは、この子だけは死なせない!』
追い込まれながら、持てる自分の力を全て使った。
『どうか…どうかこの子を安全な所に!!絶対に追っ手が行けない場所へ!!』
その強い願いをこめて、最後の魔法を使った。
赤ん坊を、安全な所に飛ばしたのだ。
安全で、優しく、暖かな場所に……
「こ…この人は…たぶん…僕の…」
「…僕の母親…」
それだけ言うのが、精一杯だった。
二人が代わる代わる、背中を擦って空を励ましていた。
(僕は…捨てられたんじゃない…違ったんだ…)
いつの間にか、生暖かい霧雨が降っていた。
暖かく、柔らかく、空を包んで…。
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