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空は、土岐島家の本当の子では無い。
まだ、結婚したばかりの土岐島夫婦が保護した子だった。
二人は、空にその事実を隠さなかった。
「お前は、空から落ちて来たんだよ。」
「神様が、間違えて落としてしまったんだよ。」
そう教えられた。
海水浴に来ていた若い二人目掛けて、
『空から落ちて来た』
らしい。
驚いた二人は、すぐに警察に届けた。
その赤ん坊は、汚い布にくるまれただけで、オムツすら付けていなかった。
体も、何日間も洗った形跡が無く、痩せ細っていた。
「虐待か、ネグレストか…」
と、届け先の警官は眉を潜めた。
「育てきれなくなって、崖から捨てたんでしょうね」
と。
その事件は、若い夫婦には余りにも衝撃的だった。
勿論、親の名乗り出は無かった。
二人は、赤ん坊を引き取る事に決めた。
この子は、捨てられたんじゃない、
神様が、落としてしまっただけだ、と。
空から来たんだから、名前は「空」。
しかし、二人は間も無く気が付く。
空が、とんでもなく弱々しい事実に。
まるで、手一本動かす事すら難しい様子で、芋虫の様にもぞもぞと体を動かすのが精一杯だった。病院に行っても、原因が分からない。
「筋肉が未発達と言う訳でもありません。
もしかしたら、脳神経かも知れません」
そう言われて、二人はこの子を捨てた親を憎んだ。
生まれつきの病気(?)だから、捨てた?
風呂も食事も与えず、崖から我が子を投げた?
「この子は、私たちが必ず立派に育てましょう」
「ああ、絶対に」
二人は、空を愛した。
その翌年、夫婦には男の子「大地」が誕生してその後、妹「海」が増え、家族は五人になった。
小学生に上がる頃には、空はすっかり普通の子と同じに動き回れるようになっていた。
そうなるために、父親は毎日一緒に走ったり、遊びながらのトレーニングを続けた。
いつしか、空は誰よりも速く走り、誰よりも高く飛べる様になっていた。
しかし何故か、日に焼けず、色白で、髪も茶色かった為に、ひ弱にしか見えなかったが…。
「海のお兄ちゃんカッワイイ!」
「超優しいんだって」
「いいな~あ~ゆ~彼氏欲しい!」
中学二年になる頃には、空は人気者になっていた。
温かく、優しい人々に囲まれて穏やかな日々を送っていた。
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