違う空

2/3

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/55ページ
空は、目覚めた。 一瞬、自分がどこに居るのか理解出来なかった。 視界に入ったのは、毒々しい紫色の花を咲かせた、見慣れない植物。 息をすると、経験した事が無い程、濃い空気が肺に流れ込んで来た。 むせるような緑の匂い。 (ここは、黒沢海岸?違う…) ゆっくりと半身を起こした時だった。 「あ~~っ!目が覚めたんだぁ~!」 背後から、びっくりする程、大きな声がした。 振り返った空は言葉を無くした。 まるで、昔のギリシャ神話の挿し絵の様な格好の少女が立っていたのだ。 同じ年頃の、大きな目が印象的な、小柄な可愛い子で、長い亜麻色の髪を緩く束ねている。 凝った細工のベルトに、イヤリング、ネックレス、ブレスレットが、動きに合わせてシャラシャランと揺れた。 頭には、白金色のリングが、まるで額を隠す様にはめられている。 「大丈夫?あなたね、溺れてたんだよ? サイラが助けて、運んだの…覚えてる?」 辺りをキョロキョロ見回して、ここがジャングルだと気付いた。 「ここは、どこなんだ?」 「あぁ、あなた川上から流れて来たみたい。場所が解らなくなったの?川上に行けば、きっと戻れるよ。」 少女は、にっこり笑った。 一体、どうなってしまったのだろう、ここはどこなんだ、この子の格好は、何を意味しているんだろう… 頭の中がグルグルした。 その時 「目が覚めたのか?」 今度は、男性の声。 草藪を掻き分けて、一人の青年が現れた。 美しい男性とは、こういう人を示しているんだ、と空は思った。 銀の髪が長く腰まで届き、堀が深く整った顔立ち、長い手足は鍛え上げられて、彫像を見ている様だった。 彼は空を見ると迷惑そうな顔をした。 「目が覚めたんだ、もう大丈夫だろう。 水は吐かせた。早く帰るんだ。」 空はやっと、声を出した。 「あ、ありがとうございます。助けてくれて…。 あの、でも、ここは一体どこなんですか?」 少女と青年は、顔を見合わせて首を傾げた。 「あの、僕は海に落ちて…でもここは、森の中で…。」 少女が笑った。 「海は、ここから何日もかかるんだよ。 それに、川下から流される筈ないじゃない!」 青年はため息をついた。 「君は、見たことの無い服装をしている…。遠い所から来たのか?」 お気に入りの速乾性Tシャツとジーンズは、たしかに彼らとは違い過ぎる。 空は答えに詰まった。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加