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空は、目覚めた。
一瞬、自分がどこに居るのか理解出来なかった。
視界に入ったのは、毒々しい紫色の花を咲かせた、見慣れない植物。
息をすると、経験した事が無い程、濃い空気が肺に流れ込んで来た。
むせるような緑の匂い。
(ここは、黒沢海岸?違う…)
ゆっくりと半身を起こした時だった。
「あ~~っ!目が覚めたんだぁ~!」
背後から、びっくりする程、大きな声がした。
振り返った空は言葉を無くした。
まるで、昔のギリシャ神話の挿し絵の様な格好の少女が立っていたのだ。
同じ年頃の、大きな目が印象的な、小柄な可愛い子で、長い亜麻色の髪を緩く束ねている。
凝った細工のベルトに、イヤリング、ネックレス、ブレスレットが、動きに合わせてシャラシャランと揺れた。
頭には、白金色のリングが、まるで額を隠す様にはめられている。
「大丈夫?あなたね、溺れてたんだよ?
サイラが助けて、運んだの…覚えてる?」
辺りをキョロキョロ見回して、ここがジャングルだと気付いた。
「ここは、どこなんだ?」
「あぁ、あなた川上から流れて来たみたい。場所が解らなくなったの?川上に行けば、きっと戻れるよ。」
少女は、にっこり笑った。
一体、どうなってしまったのだろう、ここはどこなんだ、この子の格好は、何を意味しているんだろう…
頭の中がグルグルした。
その時
「目が覚めたのか?」
今度は、男性の声。
草藪を掻き分けて、一人の青年が現れた。
美しい男性とは、こういう人を示しているんだ、と空は思った。
銀の髪が長く腰まで届き、堀が深く整った顔立ち、長い手足は鍛え上げられて、彫像を見ている様だった。
彼は空を見ると迷惑そうな顔をした。
「目が覚めたんだ、もう大丈夫だろう。
水は吐かせた。早く帰るんだ。」
空はやっと、声を出した。
「あ、ありがとうございます。助けてくれて…。
あの、でも、ここは一体どこなんですか?」
少女と青年は、顔を見合わせて首を傾げた。
「あの、僕は海に落ちて…でもここは、森の中で…。」
少女が笑った。
「海は、ここから何日もかかるんだよ。
それに、川下から流される筈ないじゃない!」
青年はため息をついた。
「君は、見たことの無い服装をしている…。遠い所から来たのか?」
お気に入りの速乾性Tシャツとジーンズは、たしかに彼らとは違い過ぎる。
空は答えに詰まった。
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