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私が去ったあと、廊下には土方さん、近藤さん、山南さんが残されていた。
土方さんの表情はさっき私が睨んだせいか、どこか寂しそうではあった。
しかし、新撰組副長としての考えは変わらなかった。
「トシ…、本当にあれでよかったのか?私は彼女も連れていってもよいとは思うのだが…」
「あぁ…、俺はどんな形であれ、あいつに血で血を洗うような現場にいてほしくない。あいつだけは清らかなままでいてほしいんだ。」
「彼女のことを心から愛してるが故にでた結論、ですか。」
「…あぁ。」
実際には、私は清らかではない。まだ私が幼かったころ、信じていた人に裏切られたことがきっかけで、無差別に人を手にかけていたことがあった。
そのせいか、笑うことも、泣くことも忘れ、しまいには「死神」とも呼ばれるようになっていた。
土方さんは、山南さんに促されるように自分の本音を白状した。
その答えに山南さんは、にっこりと笑った。
「負けました。さっきはあぁ言いましたが、私だったら彼女に辛い思いをさせているかもしれません。それに、君が本音を明かさなかった場合、龍崎くんは私がもらおうとおもっていたところでした。」
「ふっ。山南さん、たとえあんたでも楊は渡さねぇ。」
土方さんに笑顔がもどった。
いつもの副長らしい表情に…。
近藤さんは、空を見上げてやわらかく、気のしまった表情で言った。
「さて、そろそろ支度をするか。早いとこ終わらせてしまおう。」
「そうだな。」
「私はここに残ります。屯所に攻めてきても対応できますから。」
「わかった。そうしてくれ。」
近藤さんと土方さんは仕事の準備のため自室に戻った。
山南さんはしばらく空に浮かぶ満月を見上げていた。
そして、軽く微笑んで自室に戻った。
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