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ワイシャツの袖に腕を通し、ズボンのベルトを絞めると、
「風間君、ご飯」
短く簡潔に用件を言う女性の声が聞こえてくる。もう聞き慣れた声だが、よく響いて翔の耳をくすぐる。
「はいはい、分かってるよ」
翔は紺のブレザーを片手に障子を開け、家――寺の全ての部屋に繋がる廊下に出る。
廊下は吹き抜けのようになっていて、目の前にはいわゆる日本庭園が広がっており、松の木やよく分からない岩が配置され、相変わらず手入れが行き届いている。
翔はギシギシ軋む廊下を歩き、居間と部屋の中間地点にある洗面所へ向かう。
洗面所に入って直ぐに目に入ったのは、ピカピカに磨かれた鏡に写った翔自身の姿。まだ完全には覚醒しきれていない黒い目に、寝癖で派手に立った黒髪だった。
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