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「……今日はいつもより酷いな」
一人ぼやいて翔は蛇口を捻り、流れ出る冷水に躊躇うことなく頭を突っ込む。
生れつきクセの強い髪に、毎朝の洗顔ついでに髪をびちゃびちゃに濡らすのは、もう日課になっている。
眠気と一緒に寝癖も直し、翔は髪を拭いたタオルを洗濯機に投げ入れ、先程声をかけた女性が朝食を準備しているであろう居間に向かう。
翔が居間に入ると、歳をとった一人の坊さんが正座して台に向かい、味噌汁をすすっていた。
「おはようございます、住職」
「おはよう、翔君」
この坊さんはこの家――翔が下宿している寺の住職、神野祐三。御歳七十五。驚くほど元気で、寺の全ての業務を一人でこなしている。
指定席である住職の右隣に座るが、目の前の台には朝食は用意されていない。代わりに真向かいの席に人は座っていないにも関わらず、炊きたての白いご飯と味噌汁が置いてあった。
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