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「…こんばんは」
歩きながら、傘の中から引き気味に会釈するその子。
「こんばんは。名前、まだ聞いてない」
意地悪に聞こえるように、わざと言う詩織。
「北条かのんといいます。高1です」
通り過ぎる車のライトに照らし出されるその顔…。
(たいしたことないじゃん。…キレイなのは認めてやるけど)
くやしさが詩織の眉をひそめる。
「せいや先輩とは部活が同じで…」
(なに言いかけてんの。無言で藤川と見合っちゃってるし)
傘を目線まで下げて、詩織は見ないようにする。
(ふじかわっ!てば、あてつけなわけね。あんたやっぱ変わった。性格悪くなった)
「あ、しおる。…」
メールし始める詩織。藤川完全無視っ!
「せいや先輩、あたしそっちのほうに並んでいいですか」
詩織と藤川にぴったり挟まれていたかのんが、作ったような声で助けを求めるみたいに訊く。
「あ、そう?いいよ」
雨の夜を、2つの傘と、少し離れて1つの傘が並んで動いた。
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