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「はい、太田さーん、夕ごはん食べたから、これお薬ね」 一人のおばあさんが、テーブルで口を拭いてもらってからスタッフに食後の薬をもらう。 「あー、しおり…。雨に濡れちゃってー。そうそう、ちゃんとバスタオルで拭くんだ。…ケータイ見てなんか寂しそうだねー」 遠くを見るような目で、ひとりごとを言うそのおばあさん。 介護スタッフの女性、城崎さんが慣れた感じで優しく対応する。 「太田さーん、お孫さん見える?そう。いいねー、時々そうやって見れるの。太田さんの魔法だ!」 話しながらちゃんと薬を決められた分飲ます城崎さん。 (得な妄想ね。感心しちゃうわ太田さん) クスッと笑う彼女の横で、うれしそうに遠くを見るおばあさん。 「あんた、今雨降ってるでしょ外」 たしかにそうだが、おばあさんが食堂の窓を意識して言っているとは、思えない。 「そうね。太田さん、当たり」 城崎さんが次の予定を意識しながら、自然に応対する。 「あんた…」 「なあに太田さん?」 「孫がケータイ見て寂しそうなんだ。あたし帰らなくちゃ」 城崎さんの目がプロ意識に光った。 (ふふ…)
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