Spring Snow

3/7
前へ
/7ページ
次へ
「おまたせ」  菜穂子の背中に声をかける。茶色のコートを着た菜穂子が振り向く。その顔は、やっぱり綺麗だ。 「ごめんね、忙しいときに」 「いや、いいんだ。ちょうど息抜きしようと思ってたし」  菜穂子の隣に腰掛ける。会話が続かない。なんとなく重苦しい空気が二人を包む。  でも、よくよく考えたらそれもそのはず、こうして面と向かって話すのはちょうど1年ぶりになる。 「勉強、はかどってる?」  沈黙を破ったのは菜穂子だった。大きい目で、俺のことを見つめながら聞いてきた。  菜穂子は、誰と話すときも必ず相手の目を見る。本人はそれを無意識にやっているそうだが、やられた側としてはなんとも落ち着かない。嫌とかそういうことではなく、ただ単純に緊張してしまうのだ。  今も俺は、菜穂子から目を逸らしている。 「まあまあ、かな。そっちはどう?」 「うん、わたしもそれなり」  またしても会話が続かない。困った俺は、ふと菜穂子の顔に目をやった。菜穂子と目が合う。突然俺と目が合い、さすがに驚いた菜穂子のダークブラウンの瞳の中、ゆがんだ俺の姿が映っている。  一瞬見つめ合って、どっちからともなく笑いあった。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加