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「今は学校で何やってるの?」
俺の口から、自然と言葉が出た。
「メインは英語かな。授業のレベルがすっごい高くて大変でさ、毎週のようにテストがあるんだよね」
「そっか。でも将来はキャビンアテンダントになりたいんだろ? だったら頑張んなきゃな」
「うん。で、そっちは? 明日はいけそう?」
「おう。不安があったらこんなとこにいないで勉強してるよ」
菜穂子が笑う。俺も笑った。
でも正直、俺は不安でたまらない。次の授業まで、あと10分もない。この時間にさえ、英単語のひとつやふたつを覚えたいという気持ちは山々だ。
「……ごめんね、約束破っちゃって」
俺のそんな気持ちが顔に出てたのか、菜穂子は急に笑顔を引っ込めて謝った。そのあまりの突然さに、何のことだかさっぱりわからなかった俺だが、すぐに思い出した。去年、俺の受験が終わるまでは会わないと約束したのだった。
菜穂子に限って、訳もなく約束を破るはずがない。そう信じている俺は、黙って首を横に振った。
「何かあった?」
菜穂子は答えない。じっと俺のことを見つめて、黙っている。あまりに長い間黙っているので、俺がもう一度声をかけようとしたその時――。
その時、菜穂子の目から一筋の涙が流れて、白い頬を伝っていったのだった。
ごめんね、と何度も涙声で繰り返す菜穂子。黙るのは、今度は俺の番だった。
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